澤田照久 有限会社 エス・アイ・エス・コンサルティング
ブルーオーシャン戦略を胸に秘めて
「画期的だと思うんですよ。いま取り組んでいる、食品メーカーと流通そして消費者のトライアングルに新しい関係が築けたらね」。広島の地域プロデューサーとして活動する澤田氏は、食品メーカーが集う定例会議に向かう車中で、熱く語ってくれた。
それは、流通がメーカーの川上に立つ旧来の関係ではなく、互いが対等にWIN-WINの関係で発展していける新しいカタチ。「自分では瀬戸内ブルーオーシャン戦略と名づけています。イメージは、価格競争だけが支配する暗く荒れた海ではなく、広島の南に広がる瀬戸内の青い海。豊かでおだやかな瀬戸内海には、多くの生き物が非常にうまく共生してきました。こんな海を食の世界で成立させたい。それが、今の私のライフワークになっています」(澤田氏)。
車で県内を忙しくとびまわる澤田氏。月の走行距離は2000キロを越えることも
地域で取り組み始めた食育をプロデュースする
もともと関西の出身で、大手家電メーカーの技術者だった澤田氏。転勤で赴任するまで、広島は縁の薄い土地だった。「ところが、住みやすさというか、生きやすさというか。この町にすっかりはまってしまいまして」と澤田氏は笑う。2000年に会社を退職した後は、広島でマーケティング系システムコンサル会社を立ち上げた。そして、そこでの出会いが食ビジネスにのめり込むきっかけとなる。
広島県の食育条例が制定された2006年、食育をテーマとした地元食品メーカーの取り組みとして、広島県中小企業団体中央会が主催する食品研究会がスタートした。そこに研究講師として参加したのが澤田氏である。研究会は翌2007年には『おいしい朝ごはん研究所』として本格稼働を始め、その企画・戦略プロデューサーとして商品作り、市場作りを担当するようになった。研究会の合言葉は、「ひろしまから日本の朝ごはんを変えるけぇーね」だ。
「この研究会で常に意識しているのが、“モノ”から“コト”へのパラダイム変化です」と澤田氏は言う。食材単体という“モノ”だけでは、流通や消費者への新しい提案は、なかなか難しい。しかし、食育や朝ごはんといった“コト”に昇華することによって、メーカーサイドから発信する切り口が見えてくるというのだ。
『おいしい朝ごはん研究所』の定例会議。澤田氏は座長として議事進行を行う
生活者視点をメーカーにつなぐのも、大切な役割
次に向かったのは、呉市の味噌メーカー『よしの味噌』。『おいしい朝ごはん研究所』の一員で、間近に迫った展示会『スーパーマーケット・トレードショー』への出展も含めて、商品のプロモーションに関する打ち合わせが目的だ。その中には、『ちゃんと、朝ごはん味噌』など、自身が開発に関わったものも存在している。
理想の商品作りを目指して、澤田氏はさまざまな関係者を巻き込んでの活動に力を入れている。『おいしい朝ごはん研究所』が重点ターゲットとする子育て世代層の生活者視点を取り入れるため、食育に取り組む消費者組織『ママの愛デア研究会』ともタイアップ。そこで生まれたレシピや生活者視点が、新商品開発のヒントになっているのだ。
よしの味噌 野間社長と意見交換する澤田氏
地元メディアと連携したプロモーション活動
その『ママの愛デア研究会』事務所は、広島市中区光南にある。家庭の調理環境を再現したキッチンスタジオでは、地元食品メーカーと連携しながらレシピ開発が行われていた。
ここで生み出される商品・レシピのプロモーションにも、澤田氏は手を打っていた。地元メディアの協力を得て、毎月10日の『ちゃんと朝ごはんの日』にあわせて、開発した朝ごはんレシピを地元有力紙である中国新聞が掲載し、さらに地元テレビ局の夕方の料理教室番組でも放映されているのだ。
さらに、地元食品メーカーがレシピに応じて開発した製品は、スーパーの特設コーナーに展示され、それもチラシに掲載されて広報される。この活動は、すでに2年にわたって続けられているという。
商品やレシピ発売時に行うメディア対象のプレス発表の仕掛けもプロデューサーとして重要な仕事
メーカー、流通、消費者。3者のメリットを追求した特設コーナー
理想の市場作りのひとつのカタチとして澤田氏が案内してくれたのが、120年の歴史を持ち、中国エリアに50店を展開している地場スーパー『フレスタ吉島店』。店舗の一等地には、簡易キッチンを備えた朝ごはん特設コーナーが設けられていた。そこには“毎月10日はちゃんと朝ごはんの日”という大きなディスプレイとともに、『おいしい朝ごはん研究所』参加メーカー8社が開発した、“ちゃんと朝ごはんシリーズ”14の製品が6尺スパン・計3段にわたって展示されている。
「地元メーカーが、消費者視点を持って開発と売り場の企画提案までを行う。賛同した地元流通が地域の消費者に訴求する場を提供する。食に関わる3者のトライアングルで成立したこのコーナーは、ひとつの成果だと思っています」(澤田氏)。
バイヤーのニーズに響いた売り場提案がこの特設コーナーを誕生させた
地域プロデューサーのネットワークに、未来の可能性がある
澤田氏が地域プロデューサーに応募した理由は、にっぽんe物産市の仕組みだという。「地域のスーパーやメーカーと進めている私の取り組みは、いわば中規模物流の世界。そこでは、ナショナルレベルの大規模物流にはのらない独自の魅力が出せると思っています。しかし、機能的にどうしても不足するものがあるんですよ」と澤田氏。それが、にっぽんe物産市が持つ、地域から全国へのアウトプット機能と、全国から地域へのインプット機能だというのだ。「こんなプラットフォームは、なかなかあるものじゃない。私にとって、活動の場があることこそが魅力でした」と澤田氏は振り返る。
さらに澤田氏は、その場を生かすも殺すも、自分次第とも感じている。「僕自身、地域プロデューサーとして個の力をもっと強くしたい。そのうえで、全国に展開する地域プロデューサーの力を有機的に結びつけられれば、本当にいろんなことができるはずです」と澤田氏は期待を込める。
9月に地域プロデューサーになったばかりで、他のプロデューサーとのネットワークはまだあまりないという澤田氏。「私の役に立てることは協力したいし、学べることは学びたい。地域プロデューサーの中でも、目指している食の世界のようにWIN-WINの関係を築ければ理想ですね」
この3年は、食の世界にどっぷり。 休日返上のこともしばしばだという。「でも、それが辛くないんです」と澤田氏
澤田照久(さわだ・てるひさ)
昭和35年、大阪府出身。大阪工業大学を卒業後、松下電器産業入社。広島に昭和62年に赴任した後、2000年に独立起業。現在はSISコンサルティングの代表取締役をつとめる一方で、広島の食ビジネス活性化に注力中。趣味・特技は、トライアスロン、シーカヤック、ダイビング、ヨガ、写真、舟釣りなど
有限会社 エス・アイ・エス・コンサルティング http://www.sawada.tv/
おいしい朝ごはん研究所 http://hiroshima-asagohan.blogspot.com/